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キャンドルドリーム ソラ編 第2章 6

キャンドルドリーム  ソラ編
 2章 : クーリンは唄って笑って忙しい [6]


「……いやー、よかったでやんすか?」
 控えめに聞いてくるクーリンに、面倒くさそうに手をひらひらと振る創志。
 現在二人は創志の借りた宿屋の一室にいた。創志の唄で広場にいた多くの人がお金を置いていってくれたため、一瞬にして創志はしばらく生きていけるほどのお金を手に入れていた。
「気にするな。昼ごはんを驕ってもらったからな」
 どうやらこの世界は宿賃というのは比較的安いものらしい。あと数日はこのままで生きていけると計算して、ホッとベッドの上で創志は安堵の息をついた。
 そのベッドの横で、クーリンは壁に背を預けながら創志を見ていた。
「ならお言葉に甘えて」
 そう言ってクーリンはどすんと床に腰を下ろした。
「それにしても唄が上手いでやんすねぇ。記憶を失う前は吟遊詩人だったとか?」
「それはないと思うがな」
 創志は苦笑しながら天井を見上げた。宿屋(実際は酒場の二階)は木造だったため、天井は露骨に丸太が見え隠れしている。
「でも、唄で稼ぐことが出来るのはわかったでやんしょ? しばらくは吟遊詩人として生きるのがいいと思うでやんす」
「……はぁ、そうなってしまうか」
 不思議だった。自分のような素人の唄でああもお金をもらえるとは……。もちろん世界の仕組みが日本とは全く違うこともあるのだろうが、それにしても驚いた。確かにこれなら目的を遂行しつつ、生きていくことも可能だろう。ただ、やはり人前で目立つ行為は彼は好まないのだが。

 創志がため息をつき、クーリンを見る。
 すると彼はすでに愛用の楽器を取り出していて、必死に弦を直していた。しかし不器用なため、弦をピンと張った状態で固定することができずに、弦楽器としての役割はやはり果たせていない。
「…………」
 創志はそんなまだるっこしい様子をずっと眺めている。本人は気づいていなかったが、好奇心をくすぐられた猫のような表情になっていた。
 それに気づいたクーリンは不思議そうに首を傾げながら問いかける。
「ど、どうしたでやんすか?」
「…………」
 創志は質問すら聞こえていない様子で、じっと壊れた楽器を眺めていた。
 試しにクーリンは楽器を創志に近づける。すると創志の腕がするすると伸びてきて、その楽器を掴もうとした。その瞬間、パッと遠ざけた所為で創志の腕が空振る。
「……!」
 創志が憤慨した様子でクーリンを睨む。
「あ、あはは……えーっと、なんでやんすか?」
「貸せ」
「へ?」
「貸せと言っている」
 クーリンは戸惑いながらも、楽器を創志に手渡す。
 すると創志はすぐに自分の胸の中に抱き込み、顔をゼロ距離まで近づけて隅々まで楽器を観察し始めた。その瞳は火のついた時とは系統は違うが、完全に目を奪われた状態だ。
「あの……それ、私の母の餞別で……」
 クーリンが不安そうに言うと、創志はぐるりと首だけを捻ってクーリンを見た。
「直したい」
「は?」
「これ、直したい」
 クーリンがぽかーんと棒立ちになる。創志は手をわきわきさせながらクーリンの答えを待った。目が輝いている。
「……はは」
 そんな様子の創志にクーリンは苦笑してから、またどすんと床に腰を下ろした。
「いいでやんすよ。ソラさんに任せやんした」
 その言葉を聞いた瞬間、もはや許可に対する返事すらなく、創志はスイッチが入ったロボットのように一瞬にして楽器を分解する。曲がってしまっている弦を丁寧に伸ばして、それでも直らないものは見向きもせずに端にどける。
 その手際のよさにクーリンは感心しながら見つめていた。
「……ソラさんは、何でも出来るんでやんすねぇ」
「ああ。だがその中でも工作は好きだ」
 創志はすでにパーツごとに分解された楽器から目をそらさずに答える。
 少し湿らせた布で丁寧にパーツの汚れを拭き取っていく。細かいところは燭台の尖った部分に布を巻きつけて丁寧に拭き取った。

 そして楽器を復元する。ここまでで実に一時間をかけていた。

 クーリンはその丁寧さに途中から安心したのか、なにやらこの世界のメモ帳のようなものに何かをインクで書きこんでいた。おそらく創志の様子でも見て思いついた詩でも書いていたのだろう。
「クーリン」
「はい、なんでやんしょ?」
「代えの弦はあるか? 外れてしまった弦が曲がってしまっていて使えない」
「ああ、それならここにあるでやんす」
 クーリンは荷物から木箱に入った弦を取り出す。創志はその木箱を開けて、しばらくその直線具合などを吟味してから取り出した。そして器用に弦を張りなおして、クーリンへ復元された楽器を差し出した。
「ほら、直った」
「あ、は、はい」
 クーリンは信じられないほどぴかぴかで新品のようになって返ってきた母の餞別を見る。
「ははは、こりゃ凄いでやんす……」
 そう言ってクーリンは楽器を膝の上に載せて弦を弾いた。以前とは違う澄んだ音色が室内に響く。その音色と余韻を満足そうにクーリンは噛み締める。
「……ありがとうでやんす。もうこれで続けることをあきらめかけてやんしたから」
「自分の商売道具の手入れぐらいできるようになるんだな」
 創志は大変満足した様子で、普段からは信じられないぐらいにこやかな笑みを返した。
「肝に銘じるでやんすよ」
 クーリンはそこで興が乗ったのか、もう一度弦を弾いてから創志を見上げた。
「どうでやんしょ? 復活祝いに一曲」
「そうだな。聞かせてもらおうか」
「では、失礼して」


 詩を一つ歌い終えたクーリンは楽器を置いて満足そうに息を吐いた。それを見届けてから、顔を上げるクーリンに向かって静かな拍手を送る創志。
「あは、どうでやんした?」
「俺にはわからない音楽だが……、意外と落ち着くものだな」
「ははは、そうでやんすか。それならよかったでやんす」
 クーリンはそう言って笑い、楽器を仕舞ってから創志を見上げる。
 そして、顔を引き締めて口を開いた。
「ソラさん。改めて、私と旅をしやせんか?」
 その提案に創志は目を細める。
「ソラさんなら唄でやっていけるでやんす。ある程度路銀を稼いでグリュール川を上っていくのが、自分の記憶を取り戻す最短の道と思うでやんすよ」
 確かに烈と合流するならばそれが一番いいだろう。しかし、今の創志はすでに火がついてしまっている。そこで創志はちらりとクーリンを見た。クーリンはすぐに慌てて手をブンブンと振る。
「あ、いや別に、昼間の変わった唄を教えてもらおうとか……そんなことは思っちゃいないでやんすよ? 本当でやんすよ?」
「そうなんだな」
 がくっと肩を落とすクーリン。
「いや、まぁ……その、そういう下心がないわけではないでやんすけど……」
 創志は肩をすくめて微笑む。
「別に教えるぐらいならできる。ただ……俺はしばらくこの国を離れるつもりは無い」
「そうなのでやんすか?」
「ああ。右も左も分からない俺が、そう上手く旅をしていけるとは思えない」

 創志はそう言ってから、ふと何かを思いついて顎に手を当てる。
「……そうだな。ホルトレアの王都はどこにある?」
「王都はここから二週間ほど北へ歩いたところにあるでやんすけど」
 創志はそこで一度頷き、クーリンに向き直った。

「俺は王都に行こうと思う。クーリンはどうする?」

 クーリンは少し驚いた様子で息を飲み込んでから、ゆっくりと頷いた。
「あ、それなら……私も王都に行こうと思っていたでやんすから、できればご一緒に」
 そこで創志は少しだけ眉を動かしてから、微笑んだ。
「そうか。よろしく頼む」
「こちらこそ」
 創志とクーリンは軽く握手をしてから、クスッと笑う。今日出会った仲だというのに意外と打ち解けられるものだな……と創志は思った。
 本当にこの世界は活気に満ちている。自由だ。
「じゃあ明日は早いでやんす。今日はもう寝やしょう」
「わかった」

 創志はベッドに入りながら……この世界に来るまでは感じたことが無かった"明日への期待"というものを新鮮に感じていた。


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