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キャンドルドリーム ソラ編 第2章 4

キャンドルドリーム  ソラ編
 2章 : クーリンは唄って笑って忙しい [4]


 酒場から出ると、まるでマラソン選手を見守る応援団よろしくに、目の前の大通りの両側には人々の列ができあがっていた。
 そしてその列の間を通り抜けていくのは奇妙な生物に乗ったウォンクルと軍師、そしてその後ろに続く敗残兵たちであった。付近の人々は「どうしたことか」と叫ぶものも多く、さらには敗残兵たちが運ぶ棺を見て泣き崩れる者もいた。
 ウォンクルは町民のその様子を忌々しげに見つめながらも、自分にいつ非難が飛んでくるかびくびくしながら創志の目の前を通り過ぎていった。
「これは、かなりの被害を出したようでやんすね……」
 驚きを隠せない様子のクーリンの言葉に、創志は答えなかった。
 この凄惨な状況は創志が作り出したものだ。創志がクリューレに加担したことで、ホルトレア軍は敗走。この様子では数百人いた兵士の中で二割は死亡しているだろう。残りの兵も半数以上は負傷しているはずだ。しかもウォンクルは自分の撤退を優先したのか、死んだものの大半は体を運ばれておらず、その直後広場に並べられ始めた遺品が虚しさと悲しみをより一層引き立てていた。
「…………」
 創志は嘆き悲しむ人々の合間で、ただ無感情に立っていた。
 自分の行動が引き起こした帰結。しかし創志は全く心を痛めずにその光景を客観的に目に焼き付けていた。まるで、こういう時ホルトレア軍としてどのような保障をすれば民衆の反感を買わずに済むのか、後学のために計算しているようでもあった。
 創志は思う。
 他人を殺そうとしたのならば、自分が殺されても文句は言えない。無論それは自分にも当てはまる。ただその覚悟があるかないかだけだ。創志は死という現実にあまりにも達観していた。それこそチェス盤上で倒れていく駒を眺めるかのように。
「クーリン、何をしている?」
 隣でなにやらごそごそやり始めたクーリンに問いかける創志。
 クーリンはあのボロボロの壊れた楽器を取り出し、詩を歌おうとしているようだった。それは今も嘆き悲しむ者たちが大勢いる、遺品が並ぶ広場の一角でだ。
「死んだ者は帰ってこないでやんす。そのくせに……、悲しみや苦しみは無くならないでやんす。だから……」
 クーリンはびよーんと間抜けな音を立てながらも、弦を弾いた。
「人は詩を作り、唄い、伝えるでやんす。自分の悲しみを癒すために。他人にこの苦しみを背負わせないために」
 その場で座り込み、歌い始めるクーリンを創志はじっと見下ろしていた。もちろんそんな壊れた楽器で歌う詩が周りの涙を遮るはずがない。
 しかしクーリンは必死に歌っていた。誰も聞く者がいなくとも。消そうとする泣き声に自身の歌声が逆に掻き消されても。
 創志はその姿を、じっと見つめていた。

「畜生っ! クリューレの奴らめ……!」
 息子を殺された男が叫んだ。
「無害な面しやがって、やっぱり蛮族は蛮族なんだ!」
「ウォンクル様の言う通り、奴らは滅ぼさないといけないんだ!」
 その言葉に誘発され、様々な呪いの言葉が広場に木霊する。それらはクーリンの歌声を粉砕した。
 創志は思う。

 何を勝手なことを、戦争をふっかけたのは自分たちの方だろう。

 しかし所詮、この者達にはわからない。蛮族というものが何を指すのかはわからなかったが、創志にはある程度見当がついていた。文明があるこの国と、原住民のような格好したクリューレの民。その差が文明国にとって驕りとなり未知の恐れとなり、他者を蛮族と蔑むのだろう。蔑む相手に対して、平等な考えなど持てるわけが無いのだ。

 ……創志は冷めた目で民衆を見つめた。
 シャイナがつけてくれた火が消えていく。体が冷えていく。シャイナはこのような奴らと分かり合おうと言うのか。その意味はいったいどこにあるというのだろう。彼女の意思を否定するつもりは無く、まだ彼女の意思ある瞳を思い出すと胸が熱く燃え滾るが……、しかし創志はその結果に対する興味を失ってしまっていた。
「馬鹿ばっかりか……」
 創志の呟きに、驚いたようにクーリンが見上げてくる。
 どうやら彼もさすがにこの空気を前に歌うことを続けられない様子だった。
「ソラさん。悲しみや苦しみは人を変えてしまうものでやんす」
「……だが、蛮族という概念はここ十年で出来たものではなさそうだが?」
「それは……」
 クーリンは戸惑いながらも、ソラは何も知らぬものと思い出して首を横に振る。
「昔から、大陸各地では主神レイドゥエルを崇める聖火教が信仰されているでやんす。もちろん万民が信仰しているわけではないでやんすが……、王がそれを信ずるとなると、それは国の意思も同じになるでやんす。特に、このホルトレアは現王を強く信頼しているでやんすから……」

 聖火教。

 主神とそれに使える無数の神を崇める宗教であり、この大陸全土に強く信仰されている。別段厳しい戒律などはなく、ただ日々の糧などに対する祈りを主神やその他の神に捧げるというだけのものだが……、たった一つだけ、信徒に厳命されていることがある。

 クーリンが苦々しい顔でそれを言い放つ。


「聖火教は……自然と共に生きる部族に多く信仰されている"星海信仰"を邪教と決めているでやんす。それを信じる者達を全て蛮族と称して、打ち滅ぼすべしと」


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