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キャンドルドリーム ソラ編 第2章 10

キャンドルドリーム  ソラ編
 2章 : クーリンは唄って笑って忙しい [10]



 クーリンは自分の背で――――、自分の愛器が壊れる瞬間を感じた。


「あー? 何か入っていたかぁ?」
 中身に気づいたのだろう。ゾルバはそのまま皮袋を踏みにじった。
 クーリンの笑顔が一瞬固まった。
「お、お兄ちゃん?」
 女の子がクーリンを心配そうに見上げた時……、クーリンはもう笑っていた。
「大丈夫でやんすよ。ほら、もうお行き」
 クーリンが女の子を捕えようとしていた兵士に微笑みかける。兵士は声も無く、自分の行いを恥じながら頷いた。
 空いた道から女の子がこちらを気にしながら駆けていった。視界の先で女の子は自分の母親に抱きしめられ、そのまま路地へと姿を消した。

 クーリンはただ、微笑んでいた。

「逃がしてどうするんだ貴様ら。何をしているっ!」
 ゾルバはまだクーリンの皮袋を踏みにじりながら言った。
「し、しかし……相手はまだ子供です。自分には……」
 逃がすことを黙認した兵士が慌てて弁解しようとしてゾルバを振り返った。

 その時――――、その兵士は見てしまった。

 創志が自分の顎下に突きつけられていた剣先を叩き落し、傍の兵士の手首をとって関節を外し――――鬼の形相で剣を奪うところを。
「足を、どけろ」
 創志は底冷えする声でそう言った。そう忠告した。
 ゾルバが何事かと振り返ると同時に周りの兵士を弾き飛ばした創志はゾルバの顔面に蹴りをぶち込んで数メートル吹き飛ばす。
「あぐぅおっ!?」
 顎を押えてのた打ち回るゾルバを見下ろしながら、クーリンを背にして創志は口を開いた。
「答えろクーリン。……壊れたか?」
「なんの、ことでやんすか?」
 クーリンは振り返らず、彼も背を向けたまま平然と答えた。クーリンの服の背中の部分が若干赤く染まっている。皮袋から突き出した楽器の破片が刺さったのだろう。
「……それが答えか、クーリン」
 そこで創志はクーリンを振り返った。
「答えも何も、私はどうあっても、そう答えるでやんす」
 クーリンは笑みの中に意思のこもった瞳を浮かべて、創志を振り返った。
 二人の視線が交錯する。

「吟遊詩人は……笑顔を作るのが役目でやんすから」

 その言葉に、創志は頷いた。
 言いたいことを言えとは言ったものだが……、やりたいことをやるならばそれもいいだろう。創志はそう思い、クーリンに再び背を向けた。
「ならばおまえの好きにしろ、クーリン。俺は俺の好きにする」
「ソラさん!? あなたまさか……!」
 クーリンが慌てて声をかけるが、創志にはもう届かない。


「さよならだクーリン。やはり俺には吟遊詩人は似合わない」


 兵士はあまりのことに動きが取れない。
 その異様な光景の中、創志は緩慢な動きでのた打ち回るゾルバの目の前に剣を突き立てる。
「ひ、ひぎぃ!?」
 怯えてその剣の先にある創志の顔を見上げるゾルバ。創志はそんなゾルバにしゃがんで顔を近づけ……耳元で呟いた。
「おまえは殺す価値もない」
「ひっ……」
 ゾルバは直後、目を見開いて気絶した。
「ふん」
 そこで創志は立ち上がり、辺りの兵士たちを見回した。
 兵士たちはどうしていいものか困惑しながらも、創志を包囲し始める。それを面倒くさそうに見回して、創志は剣の柄から手を放し、両手を上げた。

「……捕えたいなら俺だけにしろ」


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